柳野隆生 > ノスクマードベンチャー塾 > 塾活動記録 2011年 第8回(9月)のテーマ 気候大異変 ―― 地球シミュレータの警告 ――
気候大異変 ―― 地球シミュレータの警告 ――
近年、異常気象による自然災害が、世界中で深刻な被害をもたらしている。大型ハリケーンや干ばつ、洪水、熱波、寒波・・・こうした異常気象は地球温暖化によるものだといわれている。今年の世界の自然災害による経済損失は、上半期だけでも、記録史上最悪であるという。西日本を中心に大きな被害をもたらした台風12号では、死者・行方不明者が100人を超え、台風災害としては平成に入ってから最悪の被害となった。また、タイでは過去50年間で最大規模の洪水に襲われ、犠牲者は数百人にも上り、工業団地の浸水で被害を受けた日系企業は400社を超えた。生産停止を余儀なくされる日本の大手自動車メーカーが相次ぐなど、被害がさらに深刻化している。 このまま温暖化が進めば、地球の気候はどうなってしまうのか。我々の生活はどう変わってしまうのか。
9月のノスクマードベンチャー塾では、NHK出版『気候大異変― 地球シミュレータの警告― 』を輪読した。本書は2006年2月、NHK総合テレビで放送された『NHKスペシャル 気候大異変』の番組をもとに出版された。地球はどこまで温暖化が進み、人類はどのような危機に直面するのか。日本が誇るスーパーコンピューター「地球シミュレータ」に基づき100年後の仮想地球が描かれている。国家プロジェクトとして470億円の費用と5年の歳月をかけて建設されたこの地球シミュレータは、2002年に運用開始された。5120台のコンピュータがつながれ、世界最速クラスの計算能力をもつ。
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地球は1980年代後半から急速に温暖化が進行し、これまでになく気温の高い状態が続いている。地球シミュレータの計算結果は、100年後の二酸化炭素濃度がおよそ700ppmであるという想定のもとで予測したものである。これは、今と同じ経済成長を続けながら、さらに環境技術や省エネ技術が進み、エネルギー消費が効率化されるという前提での結果である。
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そして、この想定のもとで、地球シミュレータが100年後の世界の平均気温を計算した結果、4.2度上昇することがわかった。高緯度になるほど気温の上昇は激しくなる。北極圏では10度以上、カナダやロシアでは8度程度、中緯度地域にあたる日本は4度程度の温度上昇という結果が出た。地球シミュレータが描いた100年後の東京は、驚くほど季節の様相が変化している。まず、1月には雪は降らず、紅葉の見ごろを迎える。冬らしい冬は殆どなく、三月初旬には桜が満開となり、4月初旬には初夏を思わせる陽気につつまれる。5月の端午の節句には海開きが行なわれ、一年のうち半年近くが夏となる。気温が30度を超える真夏日は、現在は45日程度だが、100日を超える。たったの100年間にこれだけの気候の変化が起こることは、これまで人類が経験したことのない事態だと考えられている。このような気温の上昇で、まず問題となるのは熱波である。熱波による死亡の危険性は、これまで熱波のリスクが低かった地域も含めて世界中に危険が広がることがわかった。また、熱波による死者数も大幅に増加し、たとえば東京で現在の11倍、ロンドンでは47倍、ニューヨークでは43倍になると予測される。
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地球の温暖化が進むと、豪雨や干ばつといった極端な気象現象が増加することがはっきりと描き出されている。現在の日本の気候では、梅雨前線がだいたい7月下旬には北上して梅雨が明ける。しかし100年後は、8月になっても梅雨前線が停滞する年が多くなり、梅雨明けが大幅に遅れる傾向になる。その影響で、地方によって雨の降る量が極端に異なり、九州を中心に西日本で雨量が増加する一方、東北地方では減少すると予測されている。雨の降る量だけでなく、降り方も変わり、豪雨の頻度が増加する。特に九州では今よりも70%も増加する。関東から東北でも、年間を通した全体の雨量は減るものの、豪雨の頻度は増えるとされている。実際に日本ではここ数年、強い雨の降る回数が増加している。西日本でその傾向は顕著に現れ、地球シミュレータの示す未来と奇妙な一致を見せている。また、極端な気候の傾向は、日本だけでなく世界各地でも現れている。
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また、温暖化によって、台風やハリケーンといった熱帯低気圧が巨大化するといわれている。地球シミュレータの計算によると、現在は風速20m程度の熱帯低気圧が最も多く、風速53メートルを超えるようなものは発生していない。しかし、100年後は風速の弱い熱帯低気圧の数が減り、逆に風速45m以上の風を伴う熱帯低気圧の数が増えることがわかった。熱帯低気圧は将来世界各地で今よりも勢力を増すと予測される。アメリカを襲ったカトリーナのように非常に大きいハリケーンや、さらに大きなものが発生するのではないかと考えられている。地球シミュレータは、将来日本の南海上や北大西洋でカトリーナ級、あるいはそれ以上のハリケーンの発生を予測している。
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そして、温暖化によって、地球全体の環境や生態系のシステムが大きく変わる可能性が高いという。北極では海氷が年々縮小し、周辺の陸地の浸食が進んでいる。2070年の夏には溶けてなくなってしまう可能性があるという。また、広大な熱帯雨林が広がるアマゾン川流域が、2100年までに砂漠に変わってしまう可能性も示唆されている。温暖化が進むと、大陸の内陸地帯では夏に乾燥化が進むといわれている。地球シミュレータによる100年後の土壌水分量の変化をみると、2100年には、アフリカ南部、ヨーロッパの地中海沿い、南北のアメリカ大陸などで乾燥化が進む。アマゾン川では2005年8月から、普段の乾季には起こりえない大渇水に見舞われるなど、実際に異変が起こり始めている。
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平均寿命が80歳を超え、100歳になっても元気に過ごす人々が増えている現在、100年後は決して遠い未来ではない。我々は、先人たちがつくり上げた歴史を礎としてその上に生きている。先人たちが試行錯誤を重ね、残してくれたものが今の時代である。過去に間違いを犯していたとしても、さかのぼってこれを正すことは出来ない。その意味で、未来をどうつくっていくのか、その責任は現代を生きる我々一人一人の肩にかかっている。我々の子や孫の世代の未来を考えるとき、このような歴史的な視点を忘れてはならない。国家や国際社会が決断することは重要であるが、その決断を促すのは我々ひとりひとりの支持や決断なのである。今、何をすべきか真剣に考え、自身の生活や行動を見直すことが大切である。それが過去を取り戻せない子や孫の世代に対する我々の責務ではないか。
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使用参考文献: 『気候大異変 ― 地球シミュレータの警告 ― 』
NHK「気候大異変」取材班+江守正多 [編著] (NHK出版)
使用参考DVD: 『NHKスペシャル 気候大異変 Climate in Crisis』(NHK DVD)