柳野国際特許事務所

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平成18年法改正
発明の単一性の有無の判断、調査対象の決定手順及びシフト補正の禁止について



<発明の単一性の有無の判断>
<審査対象の決定手順等>(注4)
<実務上の注意事項>
<シフト補正の禁止>
<実務上の注意事項>


  平成19年4月1日施行の法改正により、いわゆるシフト補正の禁止が規定され(特許法第17条の2第4項)、その審査基準が新設されるとともに、関連する発明の単一性及び審査の進め方の審査基準が改定されています。  よって、特に出願時及び平成19年4月1日以降の出願の審査時に重要なため、上記審査基準につきまして解説をするとともに実務上の注意事項等を示します。

<発明の単一性の有無の判断>

(1)発明の単一性は、二以上の発明が同一の又は対応する特別な技術的特徴を有しているかどうかで判断されます(特許法第37条(注1)、特許法施行規則第25条の8第1項(注2))。


(注1)特許法第37条
二以上の発明については、経済産業省令で定める技術的関係を有することにより発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するときは、一の願書で特許出願をすることができる。
(注2)特許法施行規則第25条の8
特許法第37条の経済産業省令で定める技術的関係とは、二以上の発明が同一の又は対応する特別な技術的特徴を有していることにより、これらの発明が単一の一般的発明概念を形成するように連関している技術的関係をいう。
2 前項に規定する特別な技術的特徴とは、発明の先行技術に対する貢献を明示する技術的特徴をいう。
3 第一項に規定する技術的関係については、二以上の発明が別個の請求項に記載されているか単一の請求項に択一的な形式によって記載されているかどうかにかかわらず、その有無を判断するものとする。
「特別な技術的特徴」とは、発明の先行技術に対する貢献を明示する技術的特徴をいう(特許法施行規則第25条の8第2項)。
「発明の先行技術に対する貢献」とは、先行技術との対比において発明が有する意義をいう。

(2)二以上の発明が同一の又は対応する特別な技術的特徴を有していると判断された場合であっても、発明の先行技術に対する貢献をもたらすものではないことが明らかになった場合(注3)には、事後的に発明の単一性の要件を満たさなくなります。


(注3)「発明の先行技術に対する貢献をもたらすものではないことが明らかになった場合」
@「特別な技術的特徴」とされたものが先行技術の中に発見された場合
A「特別な技術的特徴」とされたものが一の先行技術に対する周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではない場合
B「特別な技術的特徴」とされたものが一の先行技術に対する単なる設計変更であった場合

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<審査対象の決定手順等>(注4)

・以下において、「特別な技術的特徴」をSTF(Special Technical Featureの頭文字)と記載します。
・特許請求の範囲の最初に記載された発明がSTFを有しない場合には、当該発明と他の発明との間で、同一の又は対応するSTFを見出すことができないため、発明の単一性の要件を満たすとはいえませんが、このような場合であっても、出願人等の便宜を図るため、以下の手順により審査対象となる発明については、発明の単一性の要件が問われません。審査対象とならない発明がある場合には、発明の単一性の要件違反の拒絶理由が通知されます。


(注4)(審査対象の決定手順)
(1)請求項1についてSTFの有無を判断する。
(2)既にSTFの有無を判断した請求項に係る発明がSTFを有しない場合には、次に、直前にSTFの有無を判断した請求項に係る発明の発明特定事項をすべて含む同一カテゴリーの請求項に係る発明のうち、請求項番号の最も小さい請求項に係る発明を選択して、STFの有無を判断する。
(3)(2)の手順をSTFが発見されるまで繰り返し、STFを有する発明が発見されれば、それまでにSTFの有無を判断した発明、及び当該STFを有する発明の発明特定事項をすべて含む同一カテゴリーの発明を、審査対象とする。

(具体例)

請求項1:"A"を備えたことを特徴とするボールペン。(発明A)

請求項2:"B"を備えた請求項1記載のボールペン。(発明A+B)

請求項3:"C"を備えた請求項1又は2記載のボールペン。(発明A+C,発明A+B+C)

請求項4:"D"を備えた請求項1〜3のいずれかに記載のボールペン。
(発明A+D,発明A+B+D,発明A+C+D,発明A+B+C+D)


ケース1:請求項1にSTFがある場合
 全ての発明が共通のSTF(A)を有しているため、全ての発明について特許性が判断されます。
ケース2:請求項1にSTFがなく、請求項2にSTFがある場合
 STF発見前にSTFの有無を判断した発明Aと、共通のSTF(A+B)を含む全ての発明A+B,A+B+C,A+B+D,A+B+C+Dについて特許性が判断され、発明A+C,A+D,A+C+Dについては特許性が判断されません。
ケース3:請求項1及び2にSTFがなく、請求項3のA+B+CにSTFがある場合
 A,A+BにSTFがなく、A+B+CにSTFがあることから、直前にSTFの有無を判断した請求項2に係る発明の発明特定事項(A+B)を含む全ての発明の中で、最も請求項番号の小さいもの、すなわち請求項3に係る発明A+B+CについてSTFの有無が判断され、このA+B+CにSTFがあるため、STF発見前にSTFの有無を判断した発明A,A+Bと、共通のSTF(A+B+C)を含む全ての発明A+B+C,A+B+C+Dについて特許性が判断され、発明A+C,A+D,A+B+D,A+C+Dについては特許性が判断されません。
ケース4:請求項1及び2にSTFがなく、請求項3のA+B+CにSTFがなく、請求項4のA+B+C+DにSTFがある場合
 A,A+B,A+B+CにSTFがなく、A+B+C+DにSTFがあることから、直前にSTFの有無を判断した請求項3に係る発明の発明特定事項(A+B+C)を含む全ての発明の中で、最も請求項番号の小さいもの、すなわち請求項4に係る発明A+B+C+DについてSTFの有無が判断され、このA+B+C+DにSTFがあるため、STF発見前にSTFの有無を判断した発明A,A+B,A+B+Cと、共通のSTF(A+B+C+D)を含む全ての発明A+B+C+Dについて特許性が判断され、発明A+C,A+D,A+B+D,A+C+Dについては特許性が判断されません。
ケース5:請求項1及び2にSTFがなく、請求項3のA+B+CにSTFがなく、請求項4のA+B+C+DにもSTFがない場合
 上記審査対象の決定手順によってもSTFを有する発明が発見されないため、発明の単一性の要件(特許法第37条)違反の拒絶理由が通知されます。


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<実務上の注意事項>

(1)上記の審査対象決定手順によりSTFの有無が判断されて審査対象となる発明が決定されるため、請求項1の次におく、「請求項1の発明特定事項+αの発明」(請求項2)が特に重要になります。たとえば、上記具体例では、ケース2〜5で、請求項3の発明A+CについてのSTFの有無の判断はされず、したがって審査対象とはなりません。請求項2を発明A+Cとし、請求項3を発明A+B,発明A+C+Bとした場合には、逆に発明A+BについてのSTFの有無の判断がされないことになります。
(2)STFの有無の判断がされなかった発明については、分割出願をすることにより審査対象とすることはできますが、出願費用及び出願審査請求費用がかかることからクライアントの負担が増えるため、先ず出願時点で、先行技術調査を可能な限り充実させること、並びに、クライアントからのヒアリング等による意思の疎通を徹底して実施予定の発明の構成の把握等を行い、クライアントの同意の下で優先順位を付けてクレームドラフティングを行うことが重要です。
(3)次に、出願審査請求時点でも、先行技術調査を可能な限り充実させること、並びに、クライアントからのヒアリング等による意思の疎通を徹底して実施予定・実施済の発明の構成の把握等を行い、クライアントの同意の下で必要に応じて特許請求の範囲を補正することが重要です。
(4)また、上記の審査対象決定手順の例外として、STFの有無を判断しようとする請求項に係る発明が、直前にSTFの有無を判断した発明に技術的な関連性の低い技術的特徴を追加したものであり、かつ当該技術的特徴から把握される、発明が解決しようとする具体的な課題も関連性の低いものである場合には、更にSTFの有無を判断することなく、それ以降のSTFの有無の判断が打ち切られ、それまでにSTFの有無を判断した発明のみが審査対象とされるため、このこともクレームドラフティング上要注意です。


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<シフト補正の禁止>

・特許法第17条の2
4 前項に規定するもののほか、第一項各号に掲げる場合において特許請求の範囲について補正をするときは、その補正前に受けた拒絶理由通知において特許をすることができないものか否かについての判断が示された発明と、その補正後の特許請求の範囲に記載される事項により特定される発明とが、第37条の発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するものとなるようにしなければならない。


(1)補正前の特許請求の範囲の発明のうち拒絶理由通知において特許をすることができないものか否かについての判断が示された発明と、拒絶理由通知後に補正された発明とが、同一の又は対応するSTFを有しないことにより、発明の単一性の要件(特許法第37条)を満たさなくなるような補正(いわゆるシフト補正(STFを変更する補正))を禁止する規定です。

(2)補正前の特許請求の範囲の最初に記載された発明がSTFを有しない場合の審査の進め方

(A)補正前の特許請求の範囲において審査対象とされた発明にSTFを有する発明が見出された場合(上記ケース2〜4)
 当該補正前のSTFを有する発明の発明特定事項のすべてを含む同一カテゴリーの発明については、特許法第17条の2第4項の要件を問わずに審査対象とされます。
 たとえば上記ケース2で、請求項2(発明A+B)にSTFはあるが進歩性がない旨の拒絶理由通知がされた場合は、補正前にSTFを有するとされた発明の発明特定事項のすべて(A+B)を含む補正後の同一カテゴリーの発明については審査対象とされますが、補正前にSTFを有するとされた発明の発明特定事項のすべて(A+B)を含まない、発明A+C,A+D,A+C+D,A+X(X:詳細な説明・図面に記載された発明)等の補正がされた場合には、特許法第17条の2第4項の要件違反の拒絶理由が通知されます。


(B)補正前の特許請求の範囲において審査対象とされたすべての発明がSTFを有していなかった場合(上記ケース5)


(補正後の審査対象の決定手順)
(1)最後にSTFの有無を判断した補正前の発明特定事項をすべて含む同一カテゴリーの補正後の請求項に係る発明のうち、請求項番号の最も小さい請求項に係る発明について、STFの有無を判断する。
(2)既にSTFの有無を判断した請求項に係る発明がSTFを有しない場合には、次に、直前にSTFの有無を判断した請求項に係る発明の発明特定事項をすべて含む同一カテゴリーの請求項に係る発明のうち、請求項番号の最も小さい請求項に係る発明を選択して、STFの有無を判断する。
(3)(2)の手順をSTFを有する発明が発見されるまで繰り返し、STFを有する発明が発見されれば、補正後の特許請求の範囲の中でそれまでにSTFの有無を判断した発明、及び当該STFを有する発明の発明特定事項をすべて含む同一カテゴリーの発明を審査対象とする。


たとえば上記ケース5で、発明の単一性の要件(特許法第37条)違反の拒絶理由に対して、特許請求の範囲の請求項1をA+B+C+D+X(X:詳細な説明・図面に記載された発明)とする補正を行った場合には、当該補正後の請求項1に係る発明(A+B+C+D+X)が当該補正前に最後にSTFの有無を判断した請求項に係る発明の発明特定事項(A+B+C+D)をすべて含む同一カテゴリーの発明であることから、当該補正後の請求項1に係る発明(A+B+C+D+X)についてSTFの有無が判断され、STFがあると判断された場合には、当該補正後の請求項1に係る発明(A+B+C+D+X)について特許性が判断されます。


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<実務上の注意事項>

(1)シフト補正の禁止により上記のとおり補正可能な範囲が制限されるため、拒絶理由通知に対する当該補正時においても、上記「補正後の審査対象の決定手順」を踏まえるとともに、クライアントとの意思の疎通を図り、クライアントの実情を適切に把握して対応する必要があります。
(2)「審査対象の決定手順等」で示した実務上の注意事項と同様に、出願時点及び出願審査請求時点において、先行技術調査を可能な限り充実させること及びクライアントとの意思の疎通を密にすることにより、出願時点において適切なクレームを設定しておくこと及び出願審査請求時点において必要に応じてクレーム補正を行っておくことが重要です。

(文責 関口)


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