柳野国際特許事務所

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数値限定(パラメータ)発明の進歩性判断の事案
「電磁弁用ソレノイド」
知財高裁平成20年3月26日判決
(平成19年(行ケ)第10298号審決取消請求事件)



1.事実の概要
2.相違点1の容易想到性判断について
3.相違点2の容易想到性判断について
4.考察


本願発明 本願発明図
引用発明

引用発明図



1.事実の概要

 原告は、平成12年12月25日、「電磁弁用ソレノイド」の発明について特許出願(特願平2000−393044号)したが、平成16年8月6日付けで拒絶査定を受けたので、拒絶査定不服審判(不服2004−19165号)を請求した。しかし、特許庁は、引用発明(実開平4−97179号)に基づき、進歩性がないと判断し、拒絶審決となった。  そこで、原告(特許出願人)が被告(特許庁長官)に対し、当該審決の取消しを求める訴訟を提起したのが本件裁判である。  本裁判では、審決が、下記の相違点1、相違点2についての容易想到性判断をそれぞれ誤った結果、本願発明が引用発明に基づき容易に想到できたものである(=進歩性が無い)との誤った結論に至ったとして、審決の取消を認めた。  以下、この相違点1、相違点2についての容易想到性判断の誤りについて、裁判所の判断を紹介する。


 ◆ 本願発明


「 コイルを巻いたボビン4と,該ボビンの中心孔4aに装着した固定鉄心5と,該ボビンの中心孔4aに摺動可能に挿入され該ボビンの中心孔内に吸引力作用面を有し該コイルへの通電により吸引される可動鉄心6と,これらを囲む磁気枠とを有し,ボディ幅がボディ奥行より短い電磁弁用ソレノイド1において,  上記固定鉄心5,可動鉄心6及びボビンの中心孔4aの断面形状を長円または略長方形にすると共に,  該ボビン4に巻かれた断面が長円または略長方形のコイル7の短軸側または短辺側の巻外径Wと,コイルの内側の断面積Sと同じ断面積の仮想円柱鉄心の直径dとの間に,d=(0.4〜0.8)Wの関係を持たせ,  上記固定鉄心5及び可動鉄心6の断面における長軸または長辺の長さaと短軸または短辺の長さbとの比率を,1.3≦a/b≦3.0とした,  ことを特徴とする電磁弁用ソレノイド。」


 ◆ 相違点1


 本願発明は「ボビンに巻かれた断面が長円または略長方形のコイルの短軸側または短辺側の巻外径Wと,コイルの内側の断面積Sと同じ断面積の仮想円柱鉄心の直径dとの間に,d=(0.4〜0.8)Wの関係を持たせるとしているのに対し,引用発明はかかる寸法関係が明確にされていない点。


 ◆ 相違点2


 本願発明は「固定鉄心及び可動鉄心の断面における長軸または長辺の長さaと短軸または短辺の長さbとの比率を,1.3≦a/b≦3.0とした」としているのに対し,引用発明はかかる寸法関係が明確にされていない点。


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2.相違点1の容易想到性判断について

『 本件明細書(甲3,4)には,コイルにおける短軸側の巻外径Wを一定にした場合,固定鉄心及び可動鉄心の断面形状は円よりも長円または略長方形にしたほうが,同じ鉄心断面積であっても吸引力が大きくなる点を,まず(13)の式であるF=K4(W−dn)d2/〔W+d2/dn〕として求め,その巻外径Wを1とし,d,dnを巻外径に対する比で表すと,式(14)F/K=(1−dn)d2/〔1+d2/dn〕を得ることから,仮想円柱鉄心の直径をd=dnとした時(円又は正方形)の式(15)F/K=(1−d)d2/〔1+d〕により吸引力が大きい領域(範囲:W/d=0.4〜0,8)を定め,更にその仮想円柱鉄心の面積と同じくなる条件で長円又は長方形の形状(a/bの比の範囲)をコストの面を考慮して特定することが記載され,Wが一定ならdを小さくするとコイル巻数及び巻線の幅(W−d)が増えて吸引力が増加しかつ鉄心断面積を奥行き方向を長くして確保し,吸引力を増大させた形状の電磁弁用ソレノイドの発明が記載されていることになる。』

『 引用例には,固定鉄心,可動鉄心の断面形状を長円にすることは記載されてはいてもその寸法関係は明確にされておらず(相違点1),審決が引用例につき「長円形状断面の鉄心とした場合であっても円形断面のものと少なくとも同等の吸引力を確保できるように電磁弁用ソレノイドを設計すべきことは明らかである」(4頁17行〜19行)とした点についても,円形断面と少なくとも同等の吸引力を確保できるように長円形状断面の形状を設計することに関する記載は全くない(なお,引用例〔甲1〕の段落【0021】には,【考案の効果】として,上記のとおり「同一出力で従来の円形断面ソレノイドに比べコンパクトなソレノイドが得られ」との記載があるが,「同一出力で」との点を裏付ける具体的な記載は引用例にはない。)。』

『 さらに審決は,周知技術として甲2を引用し、「ソレノイドを設計する際に鉄心の断面積及び吸引力を考慮することは周知の技術である(必要ならば,実願昭50−015057号(実開昭51−96623号)のマイクロフィルムの明細書4ページ4ないし19行を参照。断面積が等しい鉄心において同等の吸引力が得られるよう鉄心の形状を変更している。)。」(審決4頁19行〜23行)とする。・・・・・審決が上記周知技術として引用するところによれば,鉄心の断面が長円形状のものを用いたソレノイドにおいても,コイル巻数,コイル一巻きの巻数の平均長さ,コイル巻線の断面積,鉄心の断面積を等しくすれば,短幅や吸引力を等しくすることができることについては周知技術であると認められる。しかし,本願発明は,上記のとおりコイルにおける短軸側の巻外径Wを一定にした場合に,固定鉄心及び可動鉄心の断面形状は円よりも長円または略長方形にしたほうが同じ鉄心断面積であっても吸引力が大きくなる点に注目し,その観点から相違点1に係るd=(0.4〜0.8)Wとの式を求めたものであるから,この点に関し上記引用例には記載も示唆もされていないことからして,上記周知技術の内容から本願発明の相違点1に係る構成を容易に想到できたとすることはできないというべきである。』

『 なお,審決は、「ボビンに巻かれた断面が長円のコイルの短軸側の巻外径Wと,コイルの内側の断面積と同じ断面積の仮想円柱鉄心の直径dとの比率(d/W)として検討する場合にも,かかる比率を適正な範囲に設定すべきことは明らかであるといえる。そして,かかる比率は,当業者が実験的に最適な特性が得られるものとして,適宜選定し得るものであると共に,本願発明の「d=(0.4〜0.8)W」という数値限定の範囲内と範囲外とで,有利な効果の差異が顕著であるともいえないから,かかる数値限定に臨界的意義を見出すこともできない。」(4頁34行〜5頁6行)とし,仮想円柱鉄心の直径dとコイルの短軸側の巻外径Wとの比を基にして本願発明と引用発明を比較している。しかし,本願発明は,既に検討したとおり,d=(0.4〜0.8)Wの関係を持たせた上,固定鉄心及び可動鉄心の断面における長軸または長辺の長さaと短軸または短辺の長さbとの比率を,1.3≦a/b≦3.0とすることで巻線の幅(W−d)が増加することになり固定鉄心及び可動鉄心の断面における長軸または長辺の長さaと短軸または短辺の長さbとの比率a/b=1のものよりも吸引力が大きくなることに着目したものである。したがって,本願発明は,長円にした際に,単に吸引力を発揮することを目的としたものではなくコイルの巻外径Wが一定であることを前提として,かつ同じ鉄心断面積であっても円よりも吸引力が大きくなるようにしたものであり,単に鉄心の断面形状を円から長円にしたものではなく,また@d=(0.4〜0.8)Wとの点,A1.3≦a/b≦3.0との点のいずれの数値限定についても,既に検討したとおりそれなりの技術的意義を有するものであるから,単に臨界的意義を見出すことができないとのみすることは妥当ではない。』

『 被告(特許庁側)は,吸引力は鉄心断面形状で決まるものではないから,本件明細書(甲3,4)の段落【0008】にいう「固定鉄心及び可動鉄心の断面形状は円形よりも長円または略長方形にしたほうが,同じ鉄心断面積であっても吸引力が大きくなる」との知見は正しいものではなく,本件明細書の表1,表2をみると,吸引力が大きいものはNIも大きくなっており,鉄心の断面形状を長円にしたとしても,コイルの巻数Nか,コイルを流れる電流Iを増やさない限り吸引力が大きくなることはないとし,それに沿う前記乙1(72頁の式),及び乙2(37頁の式)を提出する。しかし,既に検討したとおり,本件明細書の【表1】,【表2】の計算においては,断面が長円のコイルの短軸側の巻外径Wを一定にし,上記比率(d/W)が0.4〜0.8の範囲に設計された仮想円柱鉄心の鉄心断面積Sを一定にしておいて,その形状が長円又は長方形になるようにa/b比を変化させている。そして,その結果,コイルの短軸側の巻外径Wと鉄心の短軸dnとの差の1/2,つまりコイルの厚さ(W−dn)/2が大きくなり,その結果,コイルの巻数Nが増大するため,NIが増加し,結局吸引力が増加するものである。すなわち,本願発明は,投下コストの割に吸引力が最大となる課題を達成するために,巻外径W及び仮想円柱鉄心の鉄心断面積Sを一定とした条件の下で,仮想円柱鉄心の直径d,鉄心の断面における長軸(長辺)の長さa,及び短軸(短辺)の長さbとの関係を解明し,「ボビンに巻かれた断面が長円または略長方形のコイルの短軸側または短辺側の巻外径Wと,コイルの内側の断面積Sと同じ断面積の仮想円柱鉄心の直径dとの間に,d=(0.4〜0.8)Wの関係」とし,「固定鉄心及び可動鉄心の断面における長軸または長辺の長さaと短軸または短辺の長さbとの比率を,1.3≦a/b≦3.0」として電磁弁用ソレノイドに適用したものであり,単に,NIを増やしたものではない。被告の提出する乙1(石黒敏郎ほか著「交直マグネットの設計と応用」株式会社オーム社昭和56年7月10日第2版第11刷発行)の72頁,乙2(トリケップス企画部編〔該当部分の執筆者酒井伸吾〕「電磁石の設計と応用」株式会社トリケップス1997年〔平成9年〕10日1日発行)の37頁〜38頁には電磁石を設計するに当たり用いられる空隙の磁束密度と断面積から吸引力Fを求める式が記載されているが,これはあくまでも一般的な吸引力の式であって,断面が長円のコイルの短軸側の巻外径Wを一定にし,d/Wの比率を0.4〜0.8変化させた場合の吸引力を求める指標とは関係がないものである。』

『 また被告(特許庁側)は,審決が「鉄心が円形断面のソレノイドにおいて,ソレノイドの外径を一定とすれば,コイルの巻数に関連するコイルの巻外径W'に対する,鉄心の断面積に関連する鉄心の直径d'の比率と吸引力との関係を考えた場合,…適切な吸引力を得るには,該比率(d'/W')が大きすぎても小さすぎてもいけないことは明らかである」(4頁25行〜33行)とした点に関し,前記乙1〜5によれば,比率d'/W'として0.4〜0.8という数値範囲内の値をとる電磁石が既に実施されてきたものに過ぎないことが示されており,本願発明の「d=(0.4〜0.8)W」に相当する比率d/Wを0.4〜0.8とする数値範囲についても,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が適宜設定し得る程度のものであるとも主張する。しかし,乙1の75頁〜79頁,乙2の42頁〜45頁にソレノイドの一般論として示された鉄心の形状はいずれも円柱状のものであり,また乙3(特開平10−122415号公報,発明の名称「小型電磁弁」,出願人三明電機株式会社,公開日平成10年5月15日)の図2,乙4(特開平4−192312号公報,発明の名称「プランジャー貫通型電磁石」,出願人三菱マテリアル株式会社,公開日平成4年7月10日)の第2図の鉄心の形状はいずれも円柱状であり,これらから本願発明の長円形又は略長方形の鉄心について巻外径Wを一定にして巻線の幅を変え,吸引力を増加させる断面形状を規定する数値を設定することは当業者にとって容易であるとするのには飛躍がある。また,被告が本件明細書(甲3,4)の段落【0025】の式(15)及び図6と同様の式及び図が示されているとする乙5(特開平7−123689号公報。式は4頁の式(11),図は6頁の図5。)についても,上記同様鉄心は円柱形状であるほか,そもそも本件明細書の式(15)は固定鉄心及び可動鉄心の断面を正方形又は円とした場合の式であるから,乙5の式(11)と一致するのは当然ともいえる。加えて,上記乙1ないし5には,巻外径Wを一定にして巻線の幅を変え,吸引力を増加させる断面形状を規定する数値を設定すること,あるいは本願発明の「該ボビンに巻かれた断面が長円または略長方形のコイルの短軸側または短辺側の巻外径Wと,コイルの内側の断面積Sと同じ断面積の仮想円柱鉄心の直径dとの間に,d=(0.4〜0.8)Wの関係を持たせ,上記固定鉄心及び可動鉄心の断面における長軸または長辺の長さaと短軸または短辺の長さbとの比率を,1.3≦a/b≦3.0とした」ことにより,巻線の幅(W−d)が増加することになり,固定鉄心及び可動鉄心の断面における長軸または長辺の長さaと短軸または短辺の長さbとの比率a/b=1のものよりも吸引力が大きくなることについては,記載も示唆もされていない。』

『 さらに被告は,本件明細書(甲3,4)の図6をみても,その曲線は緩やかにつながっており,比率0.4又は0.8を境界として急に変化するものではなく,かつ,0.4〜0.8の値が単に吸引力が75%以上になるように特許出願人である原告が取り決めた結果により得られたものであり,数値範囲の内外で顕著な効果上の差異もないとも主張するが,本願発明の数値範囲については既に検討したとおりそれなりの意義を有するものであるということができるから,被告の主張は採用の限りでない。』


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3.相違点2の容易想到性判断について

『 本願発明は,・・・「上記固定鉄心,可動鉄心及びボビンの中心孔の断面形状を長円または略長方形に」し,「ボビンに巻かれた断面が長円または略長方形のコイルの短軸側または短辺側の巻外径Wと,コイルの内側の断面積Sと同じ断面積の仮想円柱鉄心の直径dとの間に,d=(0.4〜0.8)Wの関係」を持たせ,その上で「固定鉄心及び可動鉄心の断面における長軸または長辺の長さaと短軸または短辺の長さbとの比率を,1.3≦a/b≦3.0」としたものであり,これによって,コイルの短軸側の巻外径Wと鉄心の断面形状を特定するものである。そして,このような構成とすることにより,コイル巻外径Wが一定のもとで,鉄心断面積を変更せずに,投下コストを増大させることなく吸引力を増大させたものである。上記「d=(0.4〜0.8)Wの関係」の数値はコイル巻外径Wが一定のもとで鉄心断面積を変更しないことを規定するためのものであり,また「1.3≦a/b≦3.0」の数値はコイル巻外径Wが一定のもとで鉄心断面積を変更しないことを前提に投下コストを増大させることなく吸引力を増大させる範囲を定めるための数値であり,これらは,その数値範囲の内外における臨界的現象から数値を規定したものではない。したがって,上記「1.3≦a/b≦3.0」の数値限定について臨界的意義を見出せないとし,また「ソレノイドの断面形状としての長円であれば,かかる数値限定の範囲に属する長円は普通に実施されているというべきものであり,その数値限定の範囲が格別のものともいえない」(審決5頁13行〜15行)として,相違点2に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易に想到できたとする審決の判断は誤りというべきである。』

『 被告は,一般的に,a/bが2倍とか3倍の長円は,長円を示す図形として普通に想像される範囲のものであり,引用発明のソレノイドの鉄心の断面形状も長円であるのだから,これを実施する際に,a/bが2倍や3倍の長円を鉄心の断面形状として採用することに格別の困難性はないと主張する。しかし,既に検討したとおり,本願発明は単に固定鉄心及び可動鉄心の断面における長軸または長辺の長さaと短軸または短辺の長さbとの比率を,1.3≦a/b≦3.0としたものではなく,固定鉄心,可動鉄心及びボビンの中心孔の断面形状を長円または略長方形にし,「ボビンに巻かれた断面が長円または略長方形のコイルの短軸側または短辺側の巻外径Wと,コイルの内側の断面積Sと同じ断面積の仮想円柱鉄心の直径dとの間に,d=(0.4〜0.8)Wの関係を持たせ,その上で,固定鉄心及び可動鉄心の断面における長軸または長辺の長さaと短軸または短辺の長さbとの比率を,1.3≦a/b≦3.0としたものである。これにより,Wを一定にした場合において,a/b及び巻線の幅(W−d)を変え,吸引力が増加する断面形状を特定したものである。したがって,一般的に,a/bが2倍とか3倍の長円は,長円を示す図形として普通に想像される範囲のものであるとしても,これを上記効果と結びつけて固定鉄心及び可動鉄心の断面における長軸または長辺の長さaと短軸または短辺の長さbとの比率を,1.3≦a/b≦3.0とすることが格別な困難性がないということはできないというべきである。被告の主張は採用することができない。』


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4.考察

 本事案は、数値限定発明のなかでも、従来にないパラメータを用いて数値限定したいわゆる特殊パラメータ発明について、進歩性(容易想到性)の有無が争われた事案である。「特殊パラメータ発明」は、一般的に用いられていない指標を構成要素とするものであることから、先行文献に記載がなく、よって既に公知・公用のものであるにもかかわらず特許として成立してしまうという問題点が従来から指摘されており、近年は審査基準の改正等もあり、単にこのような特殊パラメータによる構成が容易に想到できないというだけでなく、一般的な数値限定発明と同様、技術水準から予測できない異質の効果、或いは同質であるが際立って優れた効果(更には臨界的意義)がなければ、進歩性を認めないという運用になっている。とはいうものの、特殊パラメータ発明は、そもそもパラメータの設定自体がオリジナルの指標であることから、その根拠・理論構成が明細書の中でしっかりとサポートされてさえいれば、一般的な数値限定発明に比べて「異質の効果」ないしは「技術的意義」が認められやすく、その意味では特許として成立する可能性が十分にある。
 本事案においても、本願の特殊パラメータ発明について、コイル断面を長円にした際に、単に吸引力を発揮することを目的としたものではなくコイルの巻外径Wが一定であることを前提として、かつ同じ鉄心断面積であっても円よりも吸引力が大きくなるようにしたものであり、単に鉄心の断面形状を円から長円にしたものではなく、相違点1にかかるd=(0.4〜0.8)Wの点、相違点2にかかる1.3≦a/b≦3.0の点のいずれの数値限定についてもそれなりの技術的意義を有し、単に臨界的意義を見出すことができないとのみすることは妥当ではないとして、進歩性が認められている。すなわち、相違点1、2の数値設定を行う理論構成に技術的意義が認められたものであり、臨界的意義がなくとも「異質の効果」ないしは「技術的意義」が認められた一例であり、その特許明細書の内容についても参考になる。
 すでに販売している自社製品や特許取得済みの製品などについても、新たな視点からその技術内容を見つめ直し、ある特殊パラメータを用いて、従来にない視点から新たに特徴付けることができれば、データや理論によるサポートは必要となるが、さらなる別の特許として成立する可能性があり、特許になれば非常に有力な権利、有力な攻撃・防御手段になりうることは勿論のこと、実質上の基本特許の延命手段としても機能することとなる。
 また、その反面として当然のことであるが、自社製品について突如、他社の特殊パラメータ特許が成立し、事業活動が脅かされることも大いにありうるのであり、よって、このような特殊パラメータを用いた新たな視点からの特徴付けを見出した段階で、進歩性やサポート要件の検討とは別に、防衛的意味での出願の検討も必要となる。

(文責 森岡)

(2008/08/08)


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