中国知的財産研究1「中国の実用新案について」
1.はじめに
2.実用新案出願は無審査主義だが、特許出願よりも件数が多い
3.同一の発明について特許出願と実用新案出願をして双方の権利化を図ることが可能
4.日本の実用新案法第29条の2や29条の3のような権利行使の際の規定がない
5.その他
中国における特許、実用新案の出願合計件数はすでに日本を抜いており、海外から中国への出願件数も増加しています。2009年度に中国特許庁が受理した海外からの特許出願件数は2110件、とくに国際出願は29.7%増加しており、海外からの特許出願が世界で5番目に多い国となっています(China Press発表)。弊所においても近年、中国への出願を取り扱うケースが増大しています。
今回は、中国の実用新案について簡単に紹介します。
中国の実用新案は、日本と同様、無審査主義が採用されています。権利存続期間も日本と同様10年と短期間です。しかしながら、とくに中国国内出願人による実用新案出願の件数は非常に多くなっています。2009年度の中国国内出願人の出願種類の内訳は、特許が約22万9千件、実用新案が約30万8千件となっています(後述の資料参照)。
ちなみに、日本の場合、特許が約34万8千件、実用新案が約9千5百件となっています。
参考URL: http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/torikumi/hiroba/2009tourokukensuu.htm
中国では同一の発明について特許出願と実用新案出願を同日に行なうことができます。実用新案出願については、基礎的な審査をパスすれば登録されます(出願から6〜8ヶ月程で登録)。他方、特許出願については、日本と同じように審査請求して実体審査をパスする必要があるため、登録までに数年ほどかかります。同日に特許出願と実用新案出願をしておくと、特許が登録になるまでの間は実用新案権によって第三者に対して権利行使し、特許出願が登録になれば特許権に切り替えて権利行使することが可能となります。
ただし、実用新案権と特許権を併存させることはできませんので、特許が権利化された段階で、実用新案権と特許権のいずれの権利を存続させるか選択する必要があります(中国専利法第9条)。
日本では、権利行使の際、実用新案法第29条の2(実用新案技術評価書の提示)により実用新案技術評価書の提示義務を課していますが、中国の専利法(特許法)第61条では、「特許権侵害紛争が実用新案特許にかかる場合、人民法院又は特許業務管理部門は、特許権者に国務院特許行政管理部門が作成した検索報告を提出するように要求することができる」とのみ規定されるにとどまります。
また日本では、権利行使の際、実用新案法第29条の3(実用新案権者等の責任)により、高度な注意義務を課していますが、中国ではこのような規定がなく、権利者側の負担が日本より軽くなっています。
さらに、中国では、特許権のみならず実用新案権に基づく権利行使においても、侵害者の過失が推定されるため、権利者は侵害者の過失を証明する必要がありません(日本の実用新案では過失は推定されない)。
このように中国では、権利行使の際の負担やデメリットが日本のように大きくなく、このことが実用新案の出願件数の多い理由の一つと考えられます。
なお、中国についての実用新案の利用状況は、特許庁の委託事業として2009年ジェトロ北京センター知的財産権部がまとめた資料があります。
参考URL:http://www.jetro-pkip.org/upload_file/2009051948988033.pdf
1.はじめに
2.実用新案出願は無審査主義だが、特許出願よりも件数が多い
3.同一の発明について特許出願と実用新案出願をして双方の権利化を図ることが可能
4.日本の実用新案法第29条の2や29条の3のような権利行使の際の規定がない
5.その他
1.はじめに
中国における特許、実用新案の出願合計件数はすでに日本を抜いており、海外から中国への出願件数も増加しています。2009年度に中国特許庁が受理した海外からの特許出願件数は2110件、とくに国際出願は29.7%増加しており、海外からの特許出願が世界で5番目に多い国となっています(China Press発表)。弊所においても近年、中国への出願を取り扱うケースが増大しています。
今回は、中国の実用新案について簡単に紹介します。
2.実用新案出願は無審査主義だが、特許出願よりも件数が多い
中国の実用新案は、日本と同様、無審査主義が採用されています。権利存続期間も日本と同様10年と短期間です。しかしながら、とくに中国国内出願人による実用新案出願の件数は非常に多くなっています。2009年度の中国国内出願人の出願種類の内訳は、特許が約22万9千件、実用新案が約30万8千件となっています(後述の資料参照)。
ちなみに、日本の場合、特許が約34万8千件、実用新案が約9千5百件となっています。
参考URL: http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/torikumi/hiroba/2009tourokukensuu.htm
3.同一の発明について特許出願と実用新案出願をして
双方権利化を図ることが可能
双方権利化を図ることが可能
中国では同一の発明について特許出願と実用新案出願を同日に行なうことができます。実用新案出願については、基礎的な審査をパスすれば登録されます(出願から6〜8ヶ月程で登録)。他方、特許出願については、日本と同じように審査請求して実体審査をパスする必要があるため、登録までに数年ほどかかります。同日に特許出願と実用新案出願をしておくと、特許が登録になるまでの間は実用新案権によって第三者に対して権利行使し、特許出願が登録になれば特許権に切り替えて権利行使することが可能となります。
ただし、実用新案権と特許権を併存させることはできませんので、特許が権利化された段階で、実用新案権と特許権のいずれの権利を存続させるか選択する必要があります(中国専利法第9条)。
4.日本の実用新案法第29条の2や29条の3のような権利行使
の際の規定がない
の際の規定がない
日本では、権利行使の際、実用新案法第29条の2(実用新案技術評価書の提示)により実用新案技術評価書の提示義務を課していますが、中国の専利法(特許法)第61条では、「特許権侵害紛争が実用新案特許にかかる場合、人民法院又は特許業務管理部門は、特許権者に国務院特許行政管理部門が作成した検索報告を提出するように要求することができる」とのみ規定されるにとどまります。
また日本では、権利行使の際、実用新案法第29条の3(実用新案権者等の責任)により、高度な注意義務を課していますが、中国ではこのような規定がなく、権利者側の負担が日本より軽くなっています。
さらに、中国では、特許権のみならず実用新案権に基づく権利行使においても、侵害者の過失が推定されるため、権利者は侵害者の過失を証明する必要がありません(日本の実用新案では過失は推定されない)。
このように中国では、権利行使の際の負担やデメリットが日本のように大きくなく、このことが実用新案の出願件数の多い理由の一つと考えられます。
5.その他
実用新案出願できる発明は、「製品の形状、構造又はその組合せについてなされた実用に適した新しい技術方案」である(特許法実施細則第2条第2項)。これは表現上、日本の「物品の形状、構造又は組合せに係る考案」とほぼ同じです。方法や用途、組成物などの発明は実用新案を利用できません。なお、中国についての実用新案の利用状況は、特許庁の委託事業として2009年ジェトロ北京センター知的財産権部がまとめた資料があります。
参考URL:http://www.jetro-pkip.org/upload_file/2009051948988033.pdf
(文責 中国特許研究グループ 中谷・森岡)
(2010/08/05)